大判例

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東京高等裁判所 昭和50年(う)482号 判決

被告人 沢田宣孝

〔抄 録〕

原判決挙示の関係各証拠によれば、吉田カツエが被告人の準備した売買契約書三通に署名し、田中忠夫をして同女の認印を押捺せしめた経緯について、原判決第一摘示の事実が認められる。

ところで、名義人の愚鈍、窮迫、軽卒又は無経験等に乗じて、これを欺罔し、他の文書と誤信させて署名・捺印させた場合にも私文書偽造罪が成立することはいうまでもないところ、右事実に照らせば、本件は、まさに、吉田カツエの法的無知、心理的混乱と疲労の状態及び亡夫の残した財産を人手に渡さないため、とにもかくにも鳥海のもとにある本件不動産の権利証を取り戻そうとする焦慮に乗じて、同女を欺罔し、同女をして、本件売買契約書を、被告人において無利息の金六〇〇万円を同女に融資する旨の契約書であると誤信させ、署名捺印させた場合というべく、私文書偽造罪の成立することは明らかである。売買契約について被害者に錯誤がある場合でも私文書偽造罪が成立しない旨の所論は独自の見解であって、採用の限りでなく、また所論引用の大審院判例(注、昭和二年三月二六日、刑集六巻一一四頁)は、文書の内容を真実なものと誤信させて署名させた事案に関するものであって、一の文書を他の文書と誤信させた本件とは事案を異にし、適切ではない。

(相澤 大前邦 油田)

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